ナマールの森

セイロンテツボクは、スリランカ原産ではあるものの現在ではその他の熱帯気候地域でも栽培されている優美な硬木である。樹高は高く、個体によっては幅広の幹に100フィートの高さにも及ぶものもあり、1986年にはスリランカの国樹とされた。シンハラ語ではナ・ツリーといい、この美しい木の最も広大な群生地がジャーティカ・ナマール・ウヤーナで発見されている。国立ナーマル園の意味合いです。

2,500エーカーを超えるこの国立保護地域のうち10%を超える260エーカーの部分は、主に2種のナ・ツリーに覆われており、この叢生地は8世紀のダップラ4世の治世の頃に形成されたと言われており、アジアに現存する人工林の中で最も古いものの一つと言える。

ナ・ツリーの花を咲かせている様は壮観であり、その強い芳香でこの木が側にあることはすぐに分かり、素朴な4枚の白い花弁に黄色い花芯が際立つ花が、眩しいような白さと清らかさを漂わせながら、洗練された雰囲気を醸し出して木を覆う様子にも、きっと心奪われる筈だ。花期は通常5月から6月で、折しもヴェサックという、ブッダの誕生、悟り、そして死を祀る仏教行事と時を同じくしている。ナは医療的効果のある木で、全草――根から、樹皮、種、花弁、葉、木に至るまで――を、喘息や皮膚病から、蛇に噛まれ出血した際の止血まで、様々な病気や不調の治癒に利用することができる。

国立ナマール園は、アヌラーダプラ街道上でダンブラからたった15kmの距離のところにあり、2005年に国立保護林に指定された。森の内部は、静かに歩き回ったり、言葉を発したとしても声をひそめてしまうような空間で、訪れるもの皆が、この森の木々はこの世の初めからずっとそこに佇んでいたのではないかという気持ちになる。一本の石畳の道が森の中へと誘ってくれる。260エーカーの鬱蒼とした森林の中には、ナ・ツリーに加え、102種程の樹木や灌木、その他の植物相が見とめられる。そのうち82種が医療用効果のある植物である為、この森はアーユルヴェーダの医学で利用できる素材の宝庫となっている。

森の中を巡ると、かつて森の修道院であった建物の古代遺跡に出くわす。古代の仏塔は今ではもう苔むしており、シーマ・マーラカやブッダの石堂がかつて建っていたであろうと思われる場所にある石柱も、森の中にひっそりと佇んでいるのが見られる。ボディガラヤ(石の壁に囲まれた場所)にかつてボー・ツリー(菩提樹)が蔓延っていたが、この場所も主要道路沿いに見られる。

森の小道をとりとめもなく歩いていくと、小川が土地の中から魔法のように現れ、更にまたもや不思議なことに、数メートル進んだ場所で消えて無くなってしまうのを見ることになる。この小川は近隣のピンク・クオーツが採れる鉱山に端を発していて、これまで涸れたことはないという。森林内には3つの滝があり、この滝の水はミネラルが豊富で、治療効果のある成分を含んでいると見なされている。

山道を更に登り続け、古代の石段を上っていけば、日の光が視界に現れ、ピンク・クオーツの山々に反射する目映いばかりの日の光で方向感覚が失われるような感覚にとらわれる。ピンク・クオーツの鉱山は7峰あり、現在ではその外層は日に晒されて色褪せているものの、森林を包み込み、守っている。この環状山脈は3,000エーカーもの面積を網羅し、アジアで最も広大なピンク・クオーツの天然鉱床である。

考古学の研究によれば、これらの水晶(クオーツ)の鉱山山脈は、形成されてから5億5千万年を超える歳月を数えるとされ、白色、薔薇色、菫色の水晶の鉱床をこの場所で見ることができる。この山脈が、考古学的見地から著しい重要性を認められたのは2001年で、有史以前の樹木の化石が、水晶の鉱床内で保存された状態で発見された時のことである。同様の化石は山脈の30エーカーに及ぶ範囲で見とめられ、現在ではこの地域に近づくことは制限されている。

森の入口へと戻る道すがら、この森に自生する60種を超える鳥達のうちの一羽か、或いは72種を超える昆虫のうちの一匹に出逢えるかもしれない。日中はこの地を訪れる人間から距離を置いている野生のゾウ達も、夜になるとこの辺りを気ままに歩き回る。この地は、苛酷な乾燥地帯の気候にありながら、その厳しさから逃れてくる数多の生き物の受け皿となり、それ故に生命の溢れる森となっているのである。

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